「ストレスで食べる」を論文で調べたら、要旨と本文で数字が違った

「ストレスで食べる」を論文で調べたら、要旨と本文で数字が違った

#調べたこと#AI#心理

目次
  1. 数字は0.274だった
  2. そもそも、食べる仕組みが2つある
  3. 要旨と本文で、数字が違った
  4. 要旨だけ読んでいたら、誤植を引用していた
  5. この論文で言えないこと
  6. 調べ方

ストレスで食べてしまう、という話をよく聞きます。自分の周りでも聞くし、ネットにも山ほど記事があります。

その記事のほとんどが、出典を書いていません。書いてあっても、別のまとめ記事へのリンクだったりします。

なので、論文を読むことにしました。読んだのはこれです。

Faizah, N. & Purwandari, E. (2025). Emotional Eating and Stress in College Students: A Meta-Analysis Study. People and Behavior Analysis, 3(1), 66-81. https://doi.org/10.31098/pba.v3i1.3160

オープンアクセスなので、誰でも無料で読めます。9件の研究、合計3005人をまとめたメタ分析です。

数字は0.274だった

ストレスと感情的摂食の相関は 0.274 でした。

論文はCohen(1988)の基準を引いていて、そこにはこう書いてあります。

r = 0.1 (low); r = 0.3 (medium); r = 0.5 (high)

0.274 なので、著者は “low category” と書いています。

ここだけ読むと「ストレスで食べるって、思ったより関係ないんだ」となりそうですが、そう単純でもありませんでした。

つまり「関係がない」ではありません。「関係はあるが、ストレスの強さで説明できる部分は小さい」が正しい読み方でした。

(相関0.274を二乗すると約0.075です。ざっくり7.5%。これは私が計算した数字で、論文には書かれていません)

そもそも、食べる仕組みが2つある

相関が小さいのは、たぶん当たり前でした。ストレスは、食べる理由のひとつでしかないからです。

食べる仕組みは、2系統あるとされています。

恒常性の摂食(homeostatic)  エネルギー不足を補う  → 満腹で止まる
快楽性の摂食(hedonic)      報酬系がはたらく      → エネルギーが足りていても起きる

別の系統なので、お腹がいっぱいでも食べられます。ストレスが関わるのは、たぶん後者だけです。

そして「別腹」は、本当にありました。

感覚特異的満腹(sensory-specific satiety)といって、同じ味に飽きるだけで、別の味なら食べられるという現象が実験で確かめられています。デザートが入るのは意志の問題ではありませんでした。

満腹になると安心するのも、理由がいくつかあります。食後は消化のために副交感神経が優位になる(リラックスする側)。空腹時の低血糖が戻る。この2つは、わりとはっきりしています。セロトニンの話もよく出てきますが、効果の大きさには議論があるようです。

要旨と本文で、数字が違った

ここからが本題です。

最初、要旨(アブストラクト)だけを読みました。そこにはこう書いてありました。

Q = 27,351

異質性の検定値です。研究どうしのばらつきを示す数字なんですが、9件の研究でこの値は大きすぎます。

カンマが桁区切りなのか、小数点なのか。著者はインドネシアの大学の方で、カンマを小数点に使う国もあります。分からないので、そのままにして本文を確認しました。

本文のTable 2には、こう書いてありました。

Q = 27.351, df = 8, p < .001

ピリオドでした。要旨の 27,351 は誤植です。

さらに面白いことに、同じ論文の中で表記が混ざっていました。

場所 表記
要旨 27,351(カンマ)
本文 Table 2 27.351(ピリオド)
本文 Table 3 0.274 0.037 7.383(ピリオド)
本文 Table 1(元データ) 0,31 0,321 0,003(カンマ)

査読誌です。掲載誌のAboutページには “peer-reviewed journal with open access” と書いてあり、ダブルブラインド査読の手順も載っています。それでも、こうなります。

要旨だけ読んでいたら、誤植を引用していた

もし要旨だけ見て記事を書いていたら、Q = 27,351 をそのまま書いていました。

まとめ記事が出典を書かない理由が、少し分かった気がします。本文まで読むと、手間が増えるからです。要旨は無料で、短くて、それらしい数字が並んでいます。

ただ、その手間の部分にしか、他の記事との違いは無さそうでした。

この論文で言えないこと

正直に書いておきます。

なので「日本人の社会人がストレスで食べるか」は、この論文からは言えません。そこは別の研究が要ります。

調べ方

使った手順を書いておきます。

  1. Google Scholar / PubMed で emotional eating stress meta-analysis を検索
  2. 2015年以降・メタ分析にしぼる
  3. オープンアクセスのものを選ぶ(有料の壁で止まらないため)
  4. 要旨だけで書かない。本文の表まで見る

4番だけが、たぶん差になります。

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