
「ストレスで食べる」を論文で調べたら、要旨と本文で数字が違った
ストレスで食べてしまう、という話をよく聞きます。自分の周りでも聞くし、ネットにも山ほど記事があります。
その記事のほとんどが、出典を書いていません。書いてあっても、別のまとめ記事へのリンクだったりします。
なので、論文を読むことにしました。読んだのはこれです。
Faizah, N. & Purwandari, E. (2025). Emotional Eating and Stress in College Students: A Meta-Analysis Study. People and Behavior Analysis, 3(1), 66-81. https://doi.org/10.31098/pba.v3i1.3160
オープンアクセスなので、誰でも無料で読めます。9件の研究、合計3005人をまとめたメタ分析です。
数字は0.274だった
ストレスと感情的摂食の相関は 0.274 でした。
論文はCohen(1988)の基準を引いていて、そこにはこう書いてあります。
r = 0.1 (low); r = 0.3 (medium); r = 0.5 (high)
0.274 なので、著者は “low category” と書いています。
ここだけ読むと「ストレスで食べるって、思ったより関係ないんだ」となりそうですが、そう単純でもありませんでした。
- p値は .001未満、z値は7.383。関係が「ある」ことは、かなりはっきりしています
- Egger’s test の p値は 0.754。都合のいい研究ばかり集まった形跡がないということです
- 95%信頼区間は 0.201〜0.347。上のほうは 0.3 を超えていて、mediumの範囲に入ります
つまり「関係がない」ではありません。「関係はあるが、ストレスの強さで説明できる部分は小さい」が正しい読み方でした。
(相関0.274を二乗すると約0.075です。ざっくり7.5%。これは私が計算した数字で、論文には書かれていません)
そもそも、食べる仕組みが2つある
相関が小さいのは、たぶん当たり前でした。ストレスは、食べる理由のひとつでしかないからです。
食べる仕組みは、2系統あるとされています。
恒常性の摂食(homeostatic) エネルギー不足を補う → 満腹で止まる
快楽性の摂食(hedonic) 報酬系がはたらく → エネルギーが足りていても起きる
別の系統なので、お腹がいっぱいでも食べられます。ストレスが関わるのは、たぶん後者だけです。
そして「別腹」は、本当にありました。
感覚特異的満腹(sensory-specific satiety)といって、同じ味に飽きるだけで、別の味なら食べられるという現象が実験で確かめられています。デザートが入るのは意志の問題ではありませんでした。
満腹になると安心するのも、理由がいくつかあります。食後は消化のために副交感神経が優位になる(リラックスする側)。空腹時の低血糖が戻る。この2つは、わりとはっきりしています。セロトニンの話もよく出てきますが、効果の大きさには議論があるようです。
要旨と本文で、数字が違った
ここからが本題です。
最初、要旨(アブストラクト)だけを読みました。そこにはこう書いてありました。
Q = 27,351
異質性の検定値です。研究どうしのばらつきを示す数字なんですが、9件の研究でこの値は大きすぎます。
カンマが桁区切りなのか、小数点なのか。著者はインドネシアの大学の方で、カンマを小数点に使う国もあります。分からないので、そのままにして本文を確認しました。
本文のTable 2には、こう書いてありました。
Q = 27.351, df = 8, p < .001
ピリオドでした。要旨の 27,351 は誤植です。
さらに面白いことに、同じ論文の中で表記が混ざっていました。
| 場所 | 表記 |
|---|---|
| 要旨 | 27,351(カンマ) |
| 本文 Table 2 | 27.351(ピリオド) |
| 本文 Table 3 | 0.274 0.037 7.383(ピリオド) |
| 本文 Table 1(元データ) | 0,31 0,321 0,003(カンマ) |
査読誌です。掲載誌のAboutページには “peer-reviewed journal with open access” と書いてあり、ダブルブラインド査読の手順も載っています。それでも、こうなります。
要旨だけ読んでいたら、誤植を引用していた
もし要旨だけ見て記事を書いていたら、Q = 27,351 をそのまま書いていました。
まとめ記事が出典を書かない理由が、少し分かった気がします。本文まで読むと、手間が増えるからです。要旨は無料で、短くて、それらしい数字が並んでいます。
ただ、その手間の部分にしか、他の記事との違いは無さそうでした。
この論文で言えないこと
正直に書いておきます。
- 対象は大学生だけです。9件のうち、はっきり college students と書かれているのは4件で、あとは18〜31歳、12〜17歳、「学生と職員」などが混ざっています
- 国名がどこにも書かれていません。本文に「異なる国から集めたので民族差がある」という記述はありますが、具体名はありません
- 統合された研究は9件だけです。著者自身が限界として挙げています
なので「日本人の社会人がストレスで食べるか」は、この論文からは言えません。そこは別の研究が要ります。
調べ方
使った手順を書いておきます。
- Google Scholar / PubMed で
emotional eating stress meta-analysisを検索 - 2015年以降・メタ分析にしぼる
- オープンアクセスのものを選ぶ(有料の壁で止まらないため)
- 要旨だけで書かない。本文の表まで見る
4番だけが、たぶん差になります。