
満腹で安心するのは気のせいだった。体だけが先に休んでいた
食べ終わると、なぜか落ち着きます。
満たされたから安心している、と思っていました。測ってみたら、順番が違いました。
何を測ったのか
山崎英恵「食品摂取と自律神経活動変化 ― 気分状態の変化を捉える ―」
日本調理科学会誌 53(5) 301-309 (2020)
総説(レビュー)。オープンアクセス
この中に、出汁を飲んでもらって自律神経を測った実験が紹介されています。
対象 16人
測る 副交感神経の活動(Δln HF)と心拍数
比べる 水・お湯と
結果
| 測ったもの | 結果 |
|---|---|
| 副交感神経 | 摂取15分後に有意に上昇(p<.05 vs 水) |
| 心拍数 | 15分後・25分後に有意に低下 |
| 主観的な気分 | お湯と比べて有意な差なし |
体は「休んでいる時」と同じ状態になりました。 でも本人の気分は、変わっていません。
「安心した」のではなく「安心する体になった」、が正確でした。
飲まなくてもよかった
同じ論文に、香りだけを嗅がせた実験もあります。
対象 20人
やること 出汁の香りを4分間 吸入するだけ(飲まない)
結果 副交感神経が有意に上昇、心拍数も有意に低下(吸入後15〜35分あたり)
口に入れなくても、同じ変化が出ています。
著者自身が「分からない」と書いている
ここが一番大事なところでした。論文の終盤に、こう書かれています。
食品に含まれる単体の成分の生理的作用によって自律神経活動が影響をうけ、 気分が変わるのか、という問いに対する明確な回答を筆者はまだ持っていない。
答えを出した論文ではありません。 そして、測り方の限界も自分で書いています。
私達が感じているポジティブな気分状態とは様々である。 スッキリ爽快な気分とのんびりリラックスした気分は、どちらも気分シート上の数値では ポジティブな気分状態として表されるが、質の異なる気分状態である。
「気分が良い」を1つの数字にまとめると、中身の違いが消えます。 だから「気分に差が出なかった」の意味も、そのぶん割り引いて読む必要があります。
さらに、こうも書いてあります。
摂取する食品への嗜好性が関連している可能性も高く、 ヒトの精神状態への有効性を検討する場合には被験者の選別なども配慮すべきと思われる。
出汁が好きな人と、そうでない人で、結果が変わるかもしれない。 著者自身がそう言っています。
書いておくこと
- 総説なので、上の実験は他の論文からの引用です。数字を強く使うなら、その原著まで当たる必要があります
- 同じ論文に出てくるノンアルコール飲料の実験は、飲料メーカーの支援を受けて行われたと明記されています(上で紹介した出汁の実験とは別です)
- 実験はヘルシンキ宣言に則り、大学の倫理委員会の承認を受けたと書かれています
まとめ
食べ終わると、体は15分ほどで休息モードに入る
でも「気分が良くなった」は、数字の上では出ていない
なぜ気分が変わるのかは、著者自身がまだ分からないと書いている
安心したんじゃなくて、安心する体になっただけでした。