
「赤ちゃんは美人が好き」の論文を開いたら、AIの説明が3か所違っていた
目次
「赤ちゃんは美人が好きらしい」と聞きました。
まだ何も知らないはずなのに、何を基準にしているのか。 そこが気になって、AIに聞きました。
返ってきた説明はこうでした。
赤ちゃんは見た顔をどんどん重ねて、頭の中に「平均の顔」を作っている。 平均に近い顔は脳が処理しやすいので、長く見る。
もっともらしい説明です。 そして3か所、間違っていました。
原文を開いた
元になったのは、この論文です。
Langlois, J. H., Roggman, L. A., Casey, R. J., Ritter, J. M.,
Rieser-Danner, L. A., & Jenkins, V. Y. (1987).
Infant preferences for attractive faces: Rudiments of a stereotype?
Developmental Psychology, 23(3), 363-369.
この記事を書いている環境からは、論文サイトが1つも開けません。PubMedもJ-STAGEも塞がっています。なのでブラウザ拡張(Claude in Chrome)に開かせました。(どうやったかは、この記事の後半に書きます)
読めたのは、共著者本人がアップロードしていたPDFでした。全7ページ、最後まで。
違い①「平均に近い顔だから」は、書いていなかった
本文に “averageness”(平均性)という言葉は、一度も出てきません。
出てくるのは “prototypic”(原型的)で、しかも疑問形です。
Are attractive faces more prototypic of the human face?
(魅力的な顔は、より「人間の顔らしい」のだろうか?)
考察の最後に、今後の課題として置かれているだけでした。
つまり1987年のこの論文は、「なぜ長く見るのか」に答えていません。 平均顔の話が検証されるのは、3年後の別の研究です。同じ著者が自分で確かめています。
要約で止めていたら、3年後の話を1987年の結論として書いていました。
違い②「学習の前からある」も言い過ぎだった
私は「生まれつきの仕組みがある証拠」と書きかけました。
でも実験の対象は生後6〜8か月と生後2〜3か月です。2か月あれば、顔はもう大量に見ています。
正しくは「言葉やメディアの影響を受ける前から」までです。
違い③「美人」を決めたのは、赤ちゃんではなかった
ここが一番大きかったところです。
顔の写真を「美人」と「そうでない」に分けたのは、大学生でした。
評価した人 大学生の男女 40名以上(論文は「40名以上」としか書いていない)
尺度 1〜5の5段階
一致度 α は .97 以上(評価者どうしがほぼ同じ点を付けた)
そして採用された写真の点数がこれです。
| 平均点 | 範囲 | |
|---|---|---|
| 「美人」として使った8枚 | 3.46 | 3.0〜3.9 |
| 「そうでない」8枚 | 1.44 | 1.1〜2.0 |
「美人 vs ブス」ではありません。「3.5点の顔 vs 1.4点の顔」です。
著者自身もこう書いています——刺激は通常の魅力度の範囲から選ばれており、極端に魅力的/非魅力的な顔ではなかった。だから選好の程度がこの範囲にとどまった可能性がある、と。
で、差はどれくらいだったのか
「美人」とされた顔 平均 7.24秒
そうでない顔 平均 6.59秒
0.65秒です。
そして71%の赤ちゃんがこの傾向でした。 裏を返すと、3割は逆の顔を長く見ています。
生後2〜3か月のほうでは、条件によっては差が出ませんでした。偶然のばらつきと区別がつかなかった、という意味です。
使われた顔は成人女性(白人)のカラースライド16枚だけ。表情は中立、眼鏡なし、服装の手がかりは隠してあります。被験者も34人中32人が白人でした。
締めを3回書き直した
これを動画にするとき、最後の1枚を3回書き直しました。
1回目 赤ちゃんが選んだんじゃない。大学生が選んだ顔だった
→ 意味が通らない。赤ちゃんは実際に選んでいる(長く見た)
大学生が決めたのは「見せる候補」のほう
2回目 赤ちゃんが美を知ってるんじゃない。大人と少し重なっただけ
→ 「重なった」も解釈。実験が示したのは秒数だけ
3回目 「赤ちゃんは美人が好き」とは、まだ言えない
3回目だけが、証拠の強さについての事実です。 前の2つは、赤ちゃんが何をしたかについての推測でした。
言えることと、言いたくなることは違います。
ここから、どうやって読んだか
論文サイトが1つも開けなかった
この記事を書いている環境は、外に出られません。
PubMed 開けない
PMC 開けない
J-STAGE 開けない
researchgate 開けない
「ブラウザの機能が弱いだけで、コマンドなら通るのでは」と言われて、初めて試しました。
$ curl https://example.com/
curl: (56) CONNECT tunnel failed, response 403
example.com すら通りません。 全部プロキシを経由していて、そこで弾かれています。
✕ AIが外部サイトを読めない (能力の話)
◎ ネットワークが通していない (設定の話)
「読めない」んじゃなく「読ませてもらえない」でした。 git は通るのに、論文サイトは通りません。
だから、ブラウザ拡張に開かせた
Claude Code ネットワークを塞がれている → 命令文を書く
人間 → コピーして貼る
Claude in Chrome ブラウザを操作できる → 原文を開いて読む
AIが書いた命令文を、人間が運んで、別のAIが実行します。 人間が一番何もしていません。
命令文の1問目
論文名を出したのはAIです。その論文が実在するかどうかは、誰も確認していません。
なので1問目をこうしました。
0. そもそもこの論文は実在しますか。著者・年・巻号ページが上と違っていたら、
正しいほうをそのまま書いてください(こちらの情報が間違っている可能性があります)
今回は実在して、書誌情報も一致していました。でも、確かめる前に書かないことにしています。
数字の指示も入れています。
・数値は画面のまま。丸めない、単位を変えない
・書いていない項目は「記載なし」。推測で補わないでください
・要旨だけしか読めなかった場合は、そう明記してください
「ダウンロードするな」と書いたら、読めなくなった
最初の命令文には、こう書いていました。
PDFやファイルのダウンロードはしないでください
これで止まりました。オープンアクセスのPDFを、開くことすらしなくなりました。
分けて書き直したら通りました。
PDFはブラウザで開いて読んで構いません。やらないのは保存(ダウンロード)です。
保存ダイアログが出たらキャンセルして、表示だけできるか試してください。
「見る」と「持って帰る」は別の動作なのに、1つの禁止で両方消していました。
モデルは軽いほうで足りた
拡張側のモデルは、上位のものに切り替えていません。
やらせているのは画面に出ている数字を、そのまま書き写す作業です。解釈も要約もさせていません。判断が要るのは、返ってきた数字を動画に入れるかどうかのほうで、そこは人間がやります。
まとめ
赤ちゃんは、大人が「3.5点」と付けた顔を、0.65秒 長く見た
3割は逆だった
なぜ長く見たのかは、この論文では分かっていない
「赤ちゃんは美人が好き」とまでは、この実験からは言えません。
そして、要約を読んでいたら、この3つは全部書けませんでした。 要約には「平均に近い顔だから」と書いてあります。原文には書いていません。